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東京高等裁判所 平成11年(行コ)55号 判決

控訴人(原告)

株式会社カワイ住宅

右代表者代表取締役

川井清雅

右訴訟代理人弁護士

秋山泰雅

上出勝

被控訴人(被告)

千葉南税務署長 前崎善朗

右指定代理人

田中芳樹

須藤哲右

佐藤宣弘

伊藤秀行

田尻昭広

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が平成七年一二月五日付けでした控訴人の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度の法人税の修正申告についての更生の請求につき更生をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、法人税の修正申告について更生の請求をした控訴人が、被控訴人から、更生の請求が法定申告期限から一年以内になされていないことを理由に更生すべき理由がない旨の通知を受けたが、修正申告当時帳簿書類を押収されていて課税標準及び税額を計算することができなかったものであり、その後その写しの交付を受けて誤りを発見したのであるから、右写しの交付を受けたときから二か月以内に更生の請求をすれば足りるものであると主張して、同通知処分の取消しを求めるものである。

原審裁判所は、帳簿書類の押収その他やむを得ない事情は、修正申告がなされその修正申告にかかる課税標準等又は税額等につき更正の請求があった場合においても、その国税の法定申告期限前に生じていたことが必要であると解すべきであるとして、控訴人の請求を棄却したことから、これを不服とする控訴人が控訴したものである。

二  前提となる事実、当事者双方の主張は、原判決三頁一〇行目の「法人税について、」の次に「その法定申告期限が同年五月三一日であったところ、」を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」一ないし四(原判決三頁六行目から一〇頁六行目まで)記載のとおりであるからこれを引用する。

第三当裁判所の判断

一  法二三条一項は、「納税申告書を提出した者は、次の各号の一に該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から一年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(略)につき更正をすべき旨を請求することができる。」と規定している。このように更正の請求をすることができる期間を法定申告期限から一年以内に限定したのは、大量かつ回帰的に発生する租税債権債務関係を早期に安定させる趣旨であると解されるところ、同条二項は、「納税申告書を提出した者(略)は、次の各号の一に該当する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に掲げる期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に掲げる期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(略)をすることができる。」と規定しており、この規定は、同条一項の期間が経過した後にあっても、後発的事由により、課税標準等又は税額等をそのまま維持しておくことが不合理、かつ不公平な結果を招来する場合のあることを考慮し、同期間を延長する救済措置を定めたものであると解される。このような規定の仕方及びその趣旨に照らすと、同条二項にいう「納税申告書を提出した者」とは、同条一項の規定を受けたものであって、一項の「納税申告書を提出した者」と同意義であると解すのが相当である。しかるところ、「納税申告書」とは、法一七条ないし一九条に定める申告書を包含する概念であると解されるが、法二三条一項の「納税申告書を提出した者」は、少なくとも法定申告期限から一年以内に申告書を提出した者に限られることは、その規定から明らかである。

また、法二三条二項三号の「その他当該国税の法定申告期限後に生じた前二号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき。」を受けた施行令六条一項三号は、「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合において、その後、当該事情が消滅したこと。」と規定しているところ、その趣旨は、法二三条一項の納税申告書を提出した者が、申告の際、帳簿書類が押収されているなどの事情により、帳簿書類その他の記録に基づいて課税標準等又は税額等の計算ができなかった場合において、その後、帳簿書類等の返還を受けるなどして、課税標準等又は税額等の計算ができない事情が消滅したときは、所定の期間(当該事情が消滅した日の翌日から二月以内)に限り一項の期間を延長し、更正請求ができることとしたものと解される。

二  控訴人は、平成二年三月三一日をもって終了する本件事業年度の法人税について、平成三年七月一九日に確定申告書を提出し、さらに平成七年四月二五日に本件修正申告書を提出した者である(この事実は前提事実において認定したとおりである。)が、平成五年八月二六日、帳簿書類の押収を受けたため、本件修正申告の当時、帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができず、その後、帳簿書類の写しの交付を受けて当該事情が消滅したのであるから、法二三条二項三号、施行令六条一項三号の規定により、当該事情が消滅した日の翌日から起算して二月以内に更正の請求をすることができるものと主張する。

しかしながら、控訴人の本件事業年度について法二三条一項の更正請求をすることのできる期限は平成三年五月三一日であって、控訴人が同条一項にいう「納税申告書を提出した者」に当たらないことは、以上に説示したところから明らかであり、そうすると、同条二項による救済規定による保護を受けることはできないものというべきである。また、これを実質的に見ても、控訴人は、法二三条一項所定の更正請求をすることができる期間中のみならず、確定申告書を提出した時点においても、帳簿書類その他の記録に基づいて課税標準等又は税額等を計算して納税申告書を提出することができたのであり、その後、帳簿書類が押収されたからといって修正申告書を提出する義務はなかったのであるから、それにもかかわらず修正申告書を提出したからといって、法二三条二項を適用する余地はないものといわざるを得ない。

控訴人は、法二三条二項三号、施行令六条一項三号の規定は、法定申告期限後に「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情」があって帳簿書類その他の記録に基づいて課税標準等又は税額等を計算することができない場合に、法二三条一項の規定にかかわらず、右事情が消滅したときから一定期間に限り更正請求をすることを認めたものであって、「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情」が法定申告期限前に生じた場合は、法一一条の規定によって法定の申告期限そのものが延長されることになると主張する。しかし、法一一条の「災害その他やむを得ない理由」とは、自然災害や人為的災害のため客観的に税務申告ができないような事態を指すものであって、帳簿書類の押収がこれに当たらないことは、文理上明らかであるし、法二三条二項三号の「法定申告期限後に生じた…やむを得ない理由」として施行令六条一項三号が定める「やむを得ない理由」は、帳簿書類の押収その他やむを得ない事情そのものではなく、「当該事情が消滅したこと」であると解されるから、控訴人の右主張は理由がない。

三  そうすると、控訴人の本件更正の請求は、法二三条一項及び二項のいずれによっても期間を徒過した不適法なものといわざるを得ず、更正をすべき理由がないものとした本件通知処分は適法である。

第四結論

以上によれば、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 橋本昌純 裁判官 岩井伸晃)

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